ヨシムラ SERT Motul 2024 FIM EWC 王者奪還を祝う

ヨシムラ SERT Motulは、今シーズンFIM世界耐久選手権の全戦で表彰台を獲得し、栄えある2024年のチャンピオンタイトルを獲得した。

今年のライダーラインナップには、チーム結成時から主力のグレッグ・ブラック選手、ヨシムラSERTモチュールから2年目となるエティエンヌ・マッソン選手、新加入のイギリス人、ダン・リンフット選手、そして渥美 心選手が開発兼リザーブライダーとして名を連ねた。

4月の開幕戦ルマン24時間では、ライダーが熟成を重ねたスズキGSX-R1000Rでハイペースを維持。途中、些細なミスで順位を落とす場面はあったが、追い上げの途中も、トップに返り咲いてからもライダーやクルー全てが集中し、見事トップでチェッカーフラッグを受けた。スズキはこの勝利でルマン通算15勝目を挙げ、ルマン24時間耐久レース史上最も成功を収めた二輪車メーカーとなった。

チームは続くスパ8時間へライバルと9ポイント差で臨み、予選で3番手と好調な走りをみせた。決勝では路面温度の上昇でライバルの転倒が相次ぐ中、ライダーたちは難コースを攻略し、迅速なピットストップで知られるクルーはスパでもその力を発揮した。そしてトップとは僅か40.145秒差で2位チェッカーを受け、ヨシムラ SERT Motulはランキングトップを守った。

日本で開催された第3戦鈴鹿8耐で、チームはライダー変更が余儀なくされた。ブラックは前月のテストで手首を骨折し欠場、マッソンはTEAM SUZUKI CN CHALLENGEに出向し、エクスペリメンタル・カテゴリーに参戦することになったのだ。そのため、今期からレギュラーライダーとなったリンフットに、鈴鹿を熟知する渥美、そしてMoto2からのスポット参戦で27歳スペイン人ライダー、アルベルト・アレナス選手が加わった。レース序盤は鈴鹿を得意とする渥美を主軸にリンフットが交互にスティントをこなす。そして二人の体力温存のためアレナスも初の耐久レースでチームに貢献した。最終スティントでは激しい3位争いを渥美が制し、見事表彰台を獲得。ここでランキングトップの座は明け渡すが、ライバルとの差はわずか6ポイントに抑えた。

タイトルのかかった最終戦ボルドールはブラック、マッソン、リンフットの3人にリザーブとして渥美というラインナップで構成された。ライダー、クルー全て息の合ったチームは、5.673kmのポールリカールサーキットで737周という記録的な周回を重ね、ライバルに7周ものリードも付けて完璧なパフォーマンスで優勝とシリーズチャンピオンを手に入れた。これは今シーズン2度開催された24時間耐久のダブル優勝となり、日仏混合となった新生チーム誕生から2度目の世界タイトル獲得になった。更にはスズキにとって世界耐久選手権での21度目の栄冠という素晴らしい結果に繋がった。

今シーズンを終えて、改めて選手たちがこの1年を振り返った。

グレッグ・ブラック 選手

チャンピオン獲得を目指すとなると、当然2つの24時間レースで優勝するという目標を掲げる必要がありましたが、強力なライバルがいる中で簡単には達成できる内容ではないという理解でシーズンをスタートしました。それでも昨シーズンのボルドールを勝利で終え、今年の開幕戦優勝で良い流れに繋がったと思います。

ヨシムラ SERT Motulはとても安定して強いチームです。4レース中4回の表彰台獲得は、我々の実力、安定性、強さを示しています。常にトップに立てるとは限らないですが、常に上位を走るライバルとバトルを繰り広げ、パフォーマンスと信頼性で強さを証明してきました。ピットワークでは常に最速を誇るクルーとの信頼も高く、私たちは決して諦めない姿勢を貫いてきました。

今年一番のレースはルマン24時間ですね。厳しい戦いでしたが、僕たちは冷静にプッシュし続け、その努力は見事に報われました。

スパの美しいコースでは苦戦してしまい、スピードに乗ることができずに2位に甘んじてしまいました。

そして鈴鹿。シーズン折り返しで波に乗っていた筈なのに、テストで手首に大怪我を負ってしまったのです。それは転倒した直後にかなりひどい骨折だと分かるほどで、回復には最低でも2~3ヶ月掛かるとすぐに感じました。そんな自分にチームは鈴鹿のレース中もずっと連絡をしてくれて、等身大パネルで僕がチームの一員という事を示してくれたのです。これは本当に嬉しかったです。

そして最終戦を迎えましたが、怪我から2ヶ月以上バイクに乗っていなかったのでメンタル面でも強さが要求されました。時には自分自身でも大丈夫かと心配がよぎり、それを払拭しながらスタートを迎え、いつもと同じホールショットを奪うことができて自信がよみがえりました。実際には精神的にも肉体的にもハードなレースとなり、チームマネージャーからは何か問題があればチームメイトのスティントを増やすから休んでもいいと言ってもらいましたが、僕は歯を食いしばって痛みを乗り越え、予定の9スティントを超える10スティントをこなしました。大好きなバイクに乗り、大好きなレースで戦い、ボルドールで優勝できるレベルに戻れたことを嬉しく誇らしく思いました。

今から2025年シーズン開幕が待ち遠しくてしかたありません。

エティエンヌ・マッソン 選手

ルマンとボルドールでの勝利は、もちろん今シーズンの大きなハイライトでしたが、僕にとっては大好きな鈴鹿サーキットでのTEAM SUZUKI CN CHALLENGEでの経験が、とても実り多いものになりました。新しいチーム、いつもとは異なる作業、別のアプローチを持って新しい目標に向けて取り組むことはとても勉強になりました。鈴鹿は日本メーカーのファクトリーチームにとって重要な場所であり、このスズキ社内チームの初耐久レースでトップ10入りが果たせたことは、クルー全員の自信に繋がり、チームの名前の通りチャレンジすることの意義が感じられたことでしょう。

僕は常に体調管理に集中し、サイクリングやランニングなどでスタミナと体のコンディションを整えていますが、鈴鹿8耐の前は気温が高い午後にトレーニングをして、日本の暑さにできるだけ適応させる様に調整してきたので、2名体制でも問題なくこなすことができました。

そして最終戦では改めてチームのスズキGSX-R1000Rに乗れる喜びを感じました。特にボールリカールでマシンはとても良く機能していましたし、この素晴らしいバイクでレースに挑めることを嬉しく思いました。この24時間レースでは、チャンピオンシップ争いの事は自分の概念から追い払い、他のレースと同様に落ち着いて臨みました。僕たちの強さは良く分かっていましたし、自分への自信もあり、チームやチームメイトへの信頼も厚かったので、その様にできたのだと思います。最後のスティントはとても長く感じられましたが、最後の2周はとても気持ち良く走れました。チェッカーフラッグを受けた瞬間は特別な感情が湧いてきましたが、チームの全員の努力の賜物だと本当に嬉しく感じました。

今回4度目のチャンピオンタイトル獲得となりました。これらの全ての戦歴や結果に誇りをもっていますが、2024年のタイトルは特別なものです。それというのも、以前より物事を深く考え、改善に向けて懸命に努力し、常に進歩しようと積み重ねてきた結果で手に入れたチャンピオンだと感じられるからです。

ダン・リンフット 選手

オフシーズンをこれほどの笑顔で迎えられたことをとても嬉しく思っています。素晴らしいチームに加入し、みんなとすぐに意気投合し、全戦で表彰台に乗って、チャンピオンを獲得したのですから、ヨシムラ SERT Motul の1年目に達成した最高の結果に満足し、誇りを感じています。

シーズンを振り返ると、やはりルマンは特別な思いがありました。開幕戦でチームのホームラウンドだったので、ミスはできないという緊張も感じていましたが、16時間以降はレースをコントロールすることができて自信を持てました。これで今年の残りの試合の流れを作れたのかなって思います。

グレッグが鈴鹿のテストで大怪我をして、参戦できなくなったことは本当に気の毒でしたし、大問題になり兼ねなかったですが、チームマネージメントがアルベルト・アレナスという助っ人を呼んでくれたことで乗り越えられました。彼とは初対面ながらすぐに打ち解け、彼もチームのために何ができるかという姿勢で一緒に戦ってくれました。人間的に素晴らしく、間違いなくチームプレーヤーとして最適なライダーで、彼の存在がココロと僕の支えになりました。

そして迎えた最終戦ボルドールの決勝で、3スティント目に僕がコースインの準備をしている時、他チームのタイヤのトラブルから戦略を変えて柔らかめのミドルスペックで走ることになりましたが、チームの判断は信頼していましたし、自信をもって走り抜きました。

ヨシムラ SERT Motul での1年目は、様々な面で非常に実り多いものとなりましたし、他の二輪レースとは違う、この耐久レースの魅力をとても感じられました。クルーチーフは4人のライダーの視点を取り入れ、技術クルーはすべてのライダーからのフィードバックに耳を傾けます。誰か1人が優先ではなくチームで戦うために全員で準備をするのです。今年はチーフのニコラスもチーム移籍1年目で、EWC初年度となりましたが、彼はMoto2から見事な移行を果たしたと言えるでしょう。このタイトルは彼にとっても特別なものになったと思います。

まとめると……。まとめると……素晴らしい1年で全てが上手くいきました。世界チャンピオン!これ以上のものはないですね!

渥美 心 選手

2024年は1年を通して初めてヨシムラ SERT Motulライダーとして過ごしたシーズンになりました。耐久の開幕前にはウィンターテストを行ったり、全日本参戦を通してマシンの開発に取り組んできたので、チームがEWC全戦で表彰台を獲得し、世界チャンピオンの座に輝いたことを本当に嬉しく思っています。

鈴鹿8耐の参戦が決まった時は本当にワクワクしました。チームは開幕後のルマンとスパの連続表彰台でランキングトップに立っていたので、最終戦のボルドールに向けて鈴鹿でも表彰台に立ちたいという強い気持ちがありました。残念ながらグレッグが怪我をしてしまったことで、不安もありました。そして彼の不在により僕がスタートライダーになりましたが、決勝では落ち着いて自分のやるべきことに集中したので日本のファンの皆さんの前でしっかり走れたと思います。

でもまさか最終スティントも僕が担当になると想定していなかったですし、ちょうどそこで表彰台争いのタイミングになると思っていなかったので、結果を決めるのは自分だという責任感で緊張しました。とにかくあのスティントは集中して全力を尽くしました。その結果3位表彰台を獲得できたので本当に嬉しかったです。チームメイトのダンに関しては、彼のスピード、安定性、そして素晴らしい人間性を分かっていたので信頼感も厚く、とにかく目標達成のために一緒に頑張りました。アルベルトは初対面でレースウィークになって初めて会ったので、どんなライダーか少し心配でしたが、あらゆる面で僕たちを助けてくれたナイスガイでした。

最終戦ボルドールはリザーブライダーとしての参戦になりましたが、難しいコンディションや他チームのトラブルもあったので、チェッカーフラッグが振られるまで緊張感を感じていました。

2024年のEWCシーズンが終わり、全日本参戦や来年に向けてのテストも行われています。鈴鹿最終戦の予選では今までの僕のベストタイムを更新することができましたが、フル参戦のライダー・チームの速さについていくことはできず、8位と5位という結果になりました。苦戦した分、課題や目標もみつかったので、冬のテストでマシンも僕自身もより速くなる様に磨きをかけていきたいと思います。

僕個人の事ですが、もうすぐ新しい家族が増える予定で、2025年は家族3人での生活がスタートします!家族を大事に、子育てにもチャレンジしながら、来年はもっともっとヨシムラ SERT Motulライダーとして活躍したいと思っています!


ヨシムラ SERT Motulは、4月19~20日にルマンで開催される2025年FIM世界耐久選手権第1戦に世界チャンピオンとして参戦する。その後6月7日にベルギーのスパ・フランコルシャンで開催のスパ・モト8時間耐久レース、8月3日に開催の第46回コカ・コーラ鈴鹿8時間耐久レース、そしてシーズンフィナーレとなる9月20~21日に開催のボルドールに参戦し、2025年もチャンピオンゼッケン奪取に向けて戦う。


×