<2-1 ポーティング編>
前回、ミニモトに出場した際の仕様はTMR-MJN28で、リストリクター(18mm)を使用していた事(リストリクターを使うとポート加工の成果が出にくい)もありポーティングは鋳肌を落としたレベルでした。しかし、今回はフルパワー仕様なのでINTとEXH共に拡大しています。ちなみにこのヘッドは拡大すれば拡大するだけピークが上の回転に移行し、パワーが出てくる傾向があります(破けないように注意が必要です)。今回使用するキャブはTMR-MJN32なので合わせた口径で拡大し、バルブガイドもおとし、拡大かつ効率のいいポートを目指して加工しました。EXHもマフラーフランジに合わせて加工してあります。
写真で見て解るとおり、インシュレーターは汎用の物を長穴加工し、ヘッド側も加工して直接ヘッドに取り付けを行っています。マニホールドを取り除く事によって吸気管長を短くして高効率化も狙いました。
そしてキャブから繋がるスピゴット、インシュレーター、インテークポートを同時にポート加工することにより、段差のないスムーズな流れを目指して作っています。
このヘッドは燃焼室形状の理由によりヘッド側の面研加工は難しいです。よって今回はヘッドに面研は行っていません。
<2-2 カムシャフト編>
今回は目標馬力に合わせてST-3カムシャフト (試作品) を新規に製作しました。現在KITに付属しているST-2カムシャフトよりもリフト量、作用角共に増やして (INTのみ) います。※このカムシャフトは軽量リテーナーとセットで”ST-3 CAMSHAFT for YOSHIMURA HEAD”として市販中です。
<2-3 動弁系部品編>
最大回転数も14000rpmとすることにより、当然動弁系部品達も軽量化しなければなりません。初めにロッカーアームです、リューターで加工しバフ研磨をして軽量化しています。
HEAD KIT STD : 36.88g → 34.68g
次にリテーナーですが新規設計、製作し軽量化しました。この形状は、現在ヨシムラのGSX-RやRM-ZのKITパーツで主流となっているリテーナーに穴を開けた仕様にしました。
ちなみにコッタはKIT品をそのまま使用しています。
この時のデータをフィードバックして出来た製品「TMR-MJN32 NSF用」が現在ラインナップしています。
バルブもステム部分を少し磨いてあります、ちなみにバルブスプリングはKIT付属品ですが、リテーナーとスプリングシートと当たりを良くする為に上下面をバフ研磨してバリを除去してあります。
<2-4 キャブレター編>
現在、ヨシムラでNSF用の大口径キャブレターとしてラインアップしているのはTMR-MJN28とFCR-MJN28の二種類のみです。これ以上の市販しているシングルキャブレターボディの口径ですとTMR-MJN34になってしまいます。さすがに34mmは大きすぎるので、中型車用のTMR-MJN32の4連ボディを改造し、新たにTMR-MJN32シングルキャブレターを製作しました。当然このキャブレター用のスピゴット、MJN及びデュアルスタックファンネルは新規製作になりました。
(※ちなみに4連キャブレター1機からはシングルキャブレターは1機しか作れません…)
<2-5 圧縮比変更、カムチェーン加工編>
圧縮を上げるには本来であればヘッド面研加工が一番早いのですが、このヘッドはポーティング編でも述べた通り面研が難しいのです。よって今回もMINI-MOTO仕様と同じくガスケットで調整しました。前回は0.3mmでしたが、ホームセンターで買った0.1mmのシートを加工し2枚使う事によって今回は0.2mmで使用し、圧縮比は約13.0に調整しています。この時のデータをフィードバックして出来た製品「Racingベースガスケット(0.25mm)」が現在ラインナップしています。
カムチェーンはHONDA純正品を継続使用し、外周をバフ研磨してテンショナー接触面とのフリクションロス低減を狙いました(バフ粉が残りやすいので洗浄の際に注意が必要です)。ちなみにNSFを新車で買った当初から今日までノーマルカムチェーンは交換していませんが、今の所トラブルは起きていないので未だ強化の必要性を感じていません。
<2-6 ピストン編>
ピストンは量産品を加工しました。リューターで裏側の肉抜き軽量化、スカート部ショート加工を行ないました。スカート部を短く加工する際は、ピストンーシリンダクリアランスを見ながら加工して行きました。また他の部分として、今回のようなガスケットを詰めて(ピストン-ヘッドクリアランスの減少)圧縮を上げたり、ピストンのスカート部を加工したり(ピストンの首振り現象)すると、バルブリセス部分(写真参照)にバルブが当たりやすくなるので、少しやすりで修正加工してあります。またピストンピンも薄肉化し軽量化してます。ちなみに今回のピストン-シリンダクリアランス (シリンダ最小値-ピストン最大値) は0.057mmでした。
ピストン-バルブクリアランスが狭い場合、どうしてもこの部分(赤丸)が当たりがちなので、この部分をリューター+ペーパーでR形状に修正加工します。
<2-7 エンジン組立編>
ここまで部品を揃えたら後はエンジン組立です。とは言っても、加工の際にそれぞれの合いを調整しながら進めていっているので組み込みの際の注意点を何点か挙げてみます。今回、腰下はカムチェーン以外特に特別な事をしていないのでHEAD KITの取扱説明書・クラッチKITの取扱説明書・純正サービスマニュアルどおりに各部の点検項目を測定(クランク振れ、クラッチ厚さの管理等)をして前回のデータと見比べて不具合がありそうな物を調整及び新品交換し組み込みます。
ヘッド本体は、ポート加工とバルブ研磨を行なっているので、バルブシートとバルブの擦り合わせを行い、バルブ当たり面を調整しておきます。
最終的にポート用のリークテスターでバルブ漏れを数値化して確認します。
(※ちなみにこのリークテスターでヘッドの出荷時検査を全数行っています。)
動弁系の組立をする際の注意事項として、今回の最高回転数の14000rpmを達成する為にバルブスプリングのセット長管理があります。バルブ突き出し量、リテーナーとバルブステムエンドのもぐり量、バルブスプリングシート厚、各部の所要寸法を測って“セット長”=“組まれている時のバルブスプリング長さ”を算出し、計算してスプリングシートの下に入れるシムの厚みを調整します。この際に使ったシートシムはGSX-R用のキットパーツを使いました。
♦パーツNo.221-518-1030:バルブスプリングシートシム t=0.3mm
♦パーツNo.221-518-1050:バルブスプリングシートシム t=0.5mm
♦パーツNo.221-518-1100:バルブスプリングシートシム t=1.0mm
コッタは組み込み時に噛み込んでしまうと傷がつき(最悪の場合変形します)、トラブルの原因となりますので、分解後の再組み込みの際は注意します、写真のように傷や変形が生じていたら新品に交換します。
動弁系が組みあがればピストン、シリンダを組み込みます、この際に今回は銅製のベースガスケットを2枚重ねて使っているのでオイル漏れを防ぐ意味で液体ガスケットを2枚とも薄く丁寧に塗ります。塗るというより指先にガスケットをつけて叩くイメージです。こうすると薄く均一に塗る事が出来ます。また、この際にオイル通路に液体ガスケットが入らないように注意します。
そしてヘッドを載せ燃焼室のリーク値を測定し、カムを組んでバルブタイミング測定です。 バルブタイミング測定方法は、こちらを参照して行います。
今回は試作カムシャフトをガスケットが薄いエンジンに組むのでかなりの注意が必要でした。始めから長穴加工してあるカムスプロケットを使って、ピストン-バルブクリアランス優先で組み上げています。最後にキットパーツのカムチェーンテンショナーアシストKITの調整もします。このパーツは調整方法によりカムチェーンを破損してしまう恐れがあるので取扱説明書を良く読んで注意して組み付けます。このパーツは高出力エンジンには必須パーツです。
各部の点検を済ませたら、いよいよ電装の設定をして車載整備です。
<2-8 電装編>
MINI-MOTO車両から電装の変更点は、内部リミッターを14000rpmに変更した程度でした。といっても現在使っている電装システムは、某メーカーのアウターローターキット…ではなく、実はこれも試作品(2007年12月時点)です。始めは流通している市販品を探していたのですが、なかなかいい物が見つからずに結局協力メーカーと共に作りました。灯火類の電源供給、点火マップの切り替えスイッチ、回転リミッターを装備しています。ちなみに2007年の鈴鹿は最大進角を31度、リミッターは約13,000rpmで使用しました。この時のデータをフィードバックして出来た製品「レーシングC.D.I ミニ for APE/XR/NSF」が現在ラインナップしています。
<2-9 車体編>
ほとんどMINI-MOTO仕様のままです(笑)。違うのは前回のMINI-MOTO練習走行時にラムエアシステムを試しましたが、導入部面積やBOX容量等の問題があった為、今回はダクトだけ残した直キャブ仕様にしました。季節は冬なのでオイルクーラーは3個→2個にしています。勿論キャッチタンクは付いています。ちなみに車体周りのセッティングは鈴鹿仕様からほとんど変えていません。
#ゼッケンも鈴鹿のまま行ってきました。